日本を呪縛する「オリンピック」の呪いは解けるのか【仲正昌樹】
■自粛反対派がオリンピックに否定的になっている理由
自粛反対派がオリンピックに否定的になっている理由も、ある意味分かりやすい。彼らは、コロナ自体はたいした病気だと思っていないので、オリンピックで感染爆発が起こっても、それほどコロナによる死者は増えない、「さざ波」が少し高くなる程度だ、くらいに考えているはずだ。彼らは、政府や小池知事がオリンピック向けに体裁をよくしたいので、“感染者を減らすための措置を取っている”ポーズとして、緊急事態宣言や蔓延防止措置をだらだらと長引かせていることに怒っているのである。オリンピック自体ではなく、オリンピックに付き合わされて、面倒なことを強制されることに腹を立てているのである。今回の延長幅を見ていると、そういう疑いを持ちたくなるのは当然だ。
ただ、それで「オリンピック」に怒りをぶつけるのは筋違いだろう。たとえオリンピックが念頭にあるとしても、現在の感染者の増加に医療提供体制が追い付いていないのであれば、感染者をできるだけ減らすために、政府や地方自治体が一般市民の行動の自由を制限する措置を取るのは仕方ないことである。感染リスクの評価や休業要請の線引きがおかしいという批判と、「オリンピック」を無理に結び付ける必要はない。オリンピックの日程に合わせているように見えるのがおかしいというのであれば、ワクチン接種や第五派の可能性など他の要因を重視して、コロナ禍終息に向けての妥当なスケジュールを提案すべきだ。
今回様々な憶測が飛び交っている原因の一つは、高齢者向けのワクチン接種が一応終了するとされている時期とオリンピックの最初の日程が重なっていることにある。ワクチン接種が進んで、最も危険に晒されている人たちの安全が取りあえず確保されるための時間稼ぎとしてやっているのか、オリンピックに合わせて体裁を合わせているだけなのか分からないので、悪い想像が働きやすくなっている。ワクチン反対の人たちは、(海外の製薬会社の意を受けた)政府や医師会がワクチン接種をさっさと進めて反対しにくい雰囲気を作るために、「オリンピック」が利用されていると考えているかもしれない。
政府や知事たちが、ワクチン接種や病床確保、検査体制整備などの進み具合に鑑みて、大よそでいいから、コロナ禍終息の目途と、それに向けての行動計画を示したうえで、それと「オリンピック」を関係付けるように説明するのであれば、すっきりする。しかし、彼らはそうした見通しを示さないまま、「緊急事態」と「オリンピック」が全く無関係であるかのような、そらぞらしく聞こえる発言を繰り返す。具体的な見通しを示して、その通りにならなかったら、責任追及されるのを怖れているのだろうが、そのせいで、自粛賛成・反対の双方が政府や知事たちに対して不信感を募らせることになる。